配偶者居住権について①制度の概要 港北区の司法書士のブログ
2020/04/07
今回は、2018年の法改正により創設され、2020年4月1日から施行された配偶者居住権についてお話したいと思います(2020年4月1日以降に生じた相続、同日以降に作成された遺言書が対象になります。)。
配偶者居住権は、後述するとおり、一定の要件を満たせば、被相続人の配偶者に対して、被相続人の財産に属していた建物であり、かつ配偶者が相続開始時に居住していた建物について、無償で使用収益できる権利を与えるものであって、これまでにない新しい権利となります。近年の高齢化に伴い、被相続人の配偶者が被相続人に相続が発生した後も、それまでの居住環境を維持する一方で、生活資金となる預貯金等も確保させる観点から創設された制度とされております。
これまでは、遺産分割の際、配偶者が居住建物を取得した場合、この建物評価が高額になるため、それ以外の財産を十分に取得することができないおそれがありました。この度設けられた配偶者居住権の制度は、配偶者のために居住建物を使用収益するだけの権限が認められ、処分権限(所有権)まではないため、低廉な価格で居住権を取得できるようになっております。
したがって、被相続人の相続に伴い、配偶者が居住建物の所有権を取得せずとも、配偶者居住権という使用収益権を取得することによって、生活の本拠を変えずに預貯金等の居住建物以外の財産の取得できる割合を増やせることになり、これまで問題とされていた、⑴配偶者において居住場所は確保したが生活資金となる預貯金等が十分にもらえなかったといったケースや、⑵不本意ながら居住建物を処分して、処分により得た代金を分けて終結させるといったケースを、解消することができるようになりました。
では、この配偶者居住権の成立には、どのような要件があるのでしょうか。以下には、その成立要件について掲げています(民法第1028条)。
① 配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していたこと
② その建物について配偶者に居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈がされたこと
①について、ここでいう「配偶者」とは法律上婚姻関係にあった配偶者をいい、内縁の配偶者は含まないとされています。また配偶者居住権の目的となる建物は、相続開始の時点において被相続人の財産に属した建物である必要があり、被相続人が賃借していた建物いわゆる借家には配偶者居住権は成立しません。加えて、被相続人が建物の共有持分を有していたに過ぎない場合も、被相続人と配偶者との間でその建物を共有していた場合を除き、配偶者居住権は成立しません。また②のとおり、配偶者居住権は相続発生により当然に生じるものではなく、遺産分割(相続人間での話し合い)、遺贈(遺言書)によって取得する必要があります。
配偶者居住権の性質としては、配偶者の居住権を保護するために特に認めれられた権利であるため、配偶者は当然ながらこれを譲渡することはできず、さらに配偶者の死亡により消滅し相続の対象にもなりません(一身専属権)。
このように配偶者居住権は、残された配偶者の生活を専ら保護する制度であり、その後の配偶者の生活に大きな影響を与えますので、これから周知されていけば、多くの利用が期待される制度と思われます。
今回はここまでとなりますが、次回は配偶者居住権の対抗要件などについてお話しいたします。